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荒木田岳×DELI
「脱被ばく」から見えてくる日本


Text by Riddim Online

 去る11月16日、沖縄で仲井真前県知事落選のニュースに湧く脇でもう一つ、日本のヒップホップ界にかつてない歴史が刻まれた。松戸市議選に出馬したDELI氏(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)がラッパーとして初めて、当選を果たしたのだ。44ある市議の席に44位で滑り込んだ氏が選挙で掲げたスローガンは2つ。「脱被ばく」、そして「脱カスタマー」だった。
 そして福島市に、2011年の原発事故直後から「脱被ばく」提唱を続ける人物がいる。福島大学行政政策学類、荒木田岳准教授だ。
 御自身が登場する「美味しんぼ 福島の真実編」111巻が刊行されたばかりの荒木田先生と、松戸市市議となったDELI氏。初対面の2人が、「脱被ばく」から紐解ける日本社会が抱える問題、今も収束からほど遠い「福島」を擁する日本の未来について語った。

DELI(以下、D):公園は、選挙前に測ったところで、1kgあたり10万ベクレルくらいは出ます。ただ福島と明らかに違うのは、局地的だということです。環境濃縮なので、除染がたぶん可能なんです。公園の全体は0.1マイクロシーベルト(以下、マイクロ)毎時以下くらいで、ベクレルだと大枠1000いかないくらいの中に10万とかが点在します。でも福島の場合はそういう「点」ではないですよね。

荒木田(以下、荒):松戸では、そういう場所が唐突にガーンとあるんだ。

D:それから、僕、一応市議になったんですね。

荒:知ってますよ(笑)。

D:ちょうど松戸は攻め甲斐があるのが、局地的なので、土壌が1万ベクレルくらいだと空間線量が0.23マイクロ毎時いかないんですね。つまり、8000ベクレルを超えたものは指定廃棄物として管理が義務づけられているのに、面的な汚染はないので、環境省のガイドラインに沿った基準で除染の有無を判断してると、見つけられないんです。

荒:そんなの50センチで測ってたら見つからないですよ。

D:矛盾点を議会最初の質問で通告しないといけないんですが、執行部は結局「それで大丈夫」と言ってるわけです。でも、そもそも基準がおかしいと思うのは、例えば神奈川の方が厳しくて、福島は甘い。つまり汚染があるところの方が基準が甘くなってるんですよ。その中で、たぶん東葛エリアは「一番向き合えるところ」だと思うんです。

荒:なるほど。

D:そして向き合った瞬間、「除染も可能」と僕は思っています。でもたぶん、これを福島でやろうとすると弊害が多い。僕は甲状腺検査についても「もっとやれ」と思っています。今、福島の県民健康調査で子ども30万人を測って100人も癌が出てるのを、「スクリーニング効果だ」とか言う人がいるわけじゃないですか。だったらなおさら西日本とか関東とか、やるべきでしょうと。それでやっと、本当に福島が特別じゃないかどうかがわかるわけで。

荒:ごもっともです。

D:予防原則の話をする人も一応はいるんですが、でも、決定権がある人は知見の話をしちゃったりとかする。「それ、何十年後の話だと思ってるんだよ」という。

荒:そう、今「エビデンスが」って言ってたら、解決はできないんです。だいたい、健康被害が出ないというエビデンスもないでしょう?だったら、予防原則で対応するほかないと思うんですけどね。

D:松戸は、向き合った瞬間に、申し訳ないですが福島みたいに「移動しなきゃいけない」とか、「地価が下落」という大問題じゃなく、安心して住める環境をつくる知恵を生み出せます。これは僕、街宣でも言ってたんですが、社会は「これから再稼動していくんでしょう」という流れじゃないですか。選挙を経て、どんなに反対が多くても結局自民党はそうするわけで、それに自分が間接的にでも同意してるんだったら、少なくとも福島の事故で何があったかをキチッと検証する。ここで知恵を生み出さなかったら、「今は被害者でも後の加害者になりますよ」って。それは川内原発の再稼動の時、鹿児島県知事が「知事の責任はないんですか?」って問われたのに対し、「福島でも知事は責任を問われなかった」って言ったんです。

荒:もう福島が、そういう前例になってしまっているんですね。

D:だから僕は東葛で前例をつくりたくない。それに今、この社会の豊かさを享受してる自分たちができることをしなかったら、「本当に加害者になりますよ」って。福島の人は東電の電力を1ワットも使ってないんだから。クリスマスとかになると言うのは、もし「夜景きれい」って言うんだったら、「どうこの夜景が生み出されているか考えてから味わえよ」って。震災の時も、物資を運んで東北行って帰ってくると、向こうはみんな分け合ってるのに、東京では家に食べ物たくさんあっても、コンビニは品切れじゃないですか。都会の人は余ってるのに分けられない。東北では、体育館で自分の食べ物もないのに隣の子供がお腹空いてるのを見て、おばあちゃんが支給されたおにぎりを分けてるんですよ。その時、「田舎ってすげーな」って。都会は分断されて感覚が麻痺してるから、もうちょっとお金だけじゃない価値観を広めたい。

●選挙前、「トップ当選狙ってる」と仰ってて、ギリギリの当選でした。

D:投票率が下がると組織票が強くなります。小さい選挙区では、圧倒的に無所属とか新人は不利じゃないですか。

荒:そりゃあそうですね。

D:それに地方選って一週間しかない。しかも僕の場合、これは落ちたらケチョンケチョンに言われたと思うんですが、まず葉書をやってない。電話かけ、戸別訪問をやってない。タスキかけない、スーツ着ない、ウグイス嬢使わないって、既存のやり方をほぼやらなかったんですね。このやり方でも受かるって証明をしたかったんですが、ちょっと調子コキ過ぎたかなって(笑)。だから、もう一回巻き戻ってもこのやり方やりません。朝立ちもやらなかったので。

●荒木田先生は、DELIさんの出馬は知ってましたか?

荒:知ってました。それも複数の筋から聞きました。知合いの知合いがみんな繋がってるんだと思います。

●「脱被ばく」を掲げて出馬する存在を知って、どう思われましたか?

荒:心強いですね。原発事故の問題って、エネルギー問題でも科学論争の話でもなく、被ばく問題ですから。政府もマスコミも被ばく問題を過小評価している中、足下から風穴を開けていくしかないので、市町村の、とりわけ議会の役割は大きいと思います。

D:それにしても福島は、給食に県内のお米を使うことに、助成金みたいのが出ますよね。ある意味、安全のPRに子供たちを使っている。

荒:そこは「お金か、命か」っていう問題では捉えられてこなかったように思います。原発事故後の不確実な状況下で、みんなが一歩譲ったんです。そしてその一歩が今では100歩になっているんです。

D:そこでも前例をつくっちゃった部分がありますね。

荒:でも、今の時点で巻き返さないとって言ってる人は少なくないから、そこは希望を捨ててはいけないと思うんですよ。僕はあんまり前向きじゃないんだけど、そこはそう思っています。

D:僕は福島、今のままでやり過ごせるとはまったく思わないですもん。だから、これが福島からだったらたぶん立候補してないと思うんですよね。

荒:それはよくわかります。

D:どうすればいいかわからないし、自分は松戸が故郷なので。それでもし、同じシチュエーションで自分が福島出身で、それで福島の議員になろうとするかと言ったら悩ましいとしか思えないと言うか。

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