• OVERHEAT MUSIC

ベスト盤を出すヒマなどなかった。
—-MUTE BEATとあの時代。

 話を89年へ飛ばせば、MUTE BEATの松永孝義がTomatosに加入し、Jagataraのエマーソン北村がMUTE BEATに加入する。
 確か、“東京ソイ・ソース”の2年目だったと思うが、MUTE BEATが「Organ’S Melody」を演奏していると、サプライズで江戸アケミが登場し、フリースタイルでトゥースティングした。至福のコラボレーションであった。そう。“東京ソイ・ソース”は、有機的な場であったのだ。
 極めて個性的な4つのバンドでありながら、全バンドともビートに対する態度には相通ずるものがあったと思う。雑食性でありながら、東京で暮らすミュージシャンならではのオリジナリティを出そうとする意志が強かった。しょうゆ育ちを隠さず、でも、ソイ・ソースが世界のレストランの一部のテーブルに並んだ如く、世界の音楽の動きに揺さぶりをかけたいという思いもあったはずだ。
 刺激的な新譜だけではなく、アナログからCD化への流れの中で、幻の名盤がリイシューされることも増え、インプットもアウトプットも、次へ次へ次へ。S-Ken & Hot Bomboms、Jagatara、Tomatos、MUTE BEATーー彼らは、あの頃、過去を振り返って、ベスト盤で自分たちの活動を俯瞰するヒマなどなかった時代を生きていたと思う。

 『The Best of MUTE BEAT』は、タイポグラフィ一発ジャケの『Still Echo』(87年)から2曲、花畑写真一発ジャケの『Flower』(87)から3曲、スリーマイル島原発事故写真一発ジャケの『Lover’s Rock』(88)から2曲、宇宙から見た青い地球写真一発ジャケの『March』(89)から3曲と、バランスよく構成されている。

ちなみに、オリジナル・アルバムのアート・ディレクターは『TRA』 の創立メンバーでもあったミック板谷である。彼の、他の多くの繊細な作品と違って、MUTE BEATのジャケットに関してだけは、小玉(現・こだま)が先にコンセプトを提示したり、他のメンバーもガンコ者が多かったこともあって、常に骨太なデザインだった。
 脱線を許してもらえば、MUTE BEATの音源をリー・ペリー、キング・タビー、Dub Master Xがダブ・ミックスしたアルバム『MUTE BEAT DUB WISE』(89)のジャケットは、ナンシー関による、3人の似顔絵の消しゴム版画が押されただけ! というシンプルなれど、力強いものである。

先日、震災で棚から飛び出したレコードやCDの片付けを、若い友人二人に手伝ってもらっていたら、「川勝さん、意外にレゲエやダブがたくさんありますね」と驚かれた。ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの来日公演に間に合ったロック世代であり、UKのニューウェイヴとダブ・ミックスの親和性が高かった時代をリアルタイムで体験した世代ということもあるが、もちろん、MUTE BEATの影響大なことは言うまでもない。
 『The Best of MUTE BEAT』の白盤が届くのはもう少し先になるということなので、曲目リストの順番に、散らばったCDの山から捕獲したオリジナル・アルバムから聴いていく。

 MUTE BEATには歌詞がないから、聴き手はアルバムや曲のタイトル、そして、ジャケットのデザインを補助線にして、彼らのメッセージを、あるいは、言葉にならない感情を、圧倒的な音の波動に身を委ねながら、そして、時として出現する“間(ま)”にビックリしながら、感じ取ろうとする。
 あの時代、自分はMUTE BEATの音楽と完全にシンクロしていたという自負があったのだけれど、本当にそうだったのだろうか? 今回、新しい発見があり過ぎて、僕はMUTE BEATのどこを聴いていたのだろうか? と、ファンとしてはうれしいような、恥ずかしいような気持ちになっている。

 結局、アルバムを丸々聴いてしまう結果になったのだけれど、初期12インチ・シングル三部作をまとめた『Still Echo』を聴くと、87年といえば、すでにRUN-D.M.C.やビースティ・ボーイズがスターになっていたにも関わらず、間奏でヒップホップのオールドスクールへの目配せがある楽曲もあったことに、改めて気づく。
 中でも、「Kiyev No Sora」(『Lover’s Rock』)は、自分の体内に様々な感情の渦を巻き起こした。チェルノブイリ原発事故の2年後に、この楽曲を作り、“キエフの空”というタイトルを付けるところに、MUTE BEATのガンコな美学とタフな想像力がある。

村上春樹のカタルーニャ国際賞スピーチ原稿全文をmainichi.jpで読んだ夜に
川勝正幸

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“The Best of MUTE BEAT”
MUTE BEAT [Overheat Music/ OVE-0106]

1. MARCH [MARCH / 1989] 2. COFFIA [MUTE BEAT / 1986] 3. STILL ECHO [STILL ECHO / 1986] 4. METRO [FLOWER / 1987] 5. BEAT AWAY [FLOWER / 1987] 6. JAZZ MAN [LOVER'S ROCK / 1988] 7. DOWN TRAIN [LOVER'S ROCK / 1988] 8. KIYEV NO SORA [LOVER'S ROCK / 1988] 9. FIOLINA [MARCH / 1989] 10. MARCH (REBEL MUSIC IN THE AIR) [MARCH / 1989] Bounus Track
11. SOMETHING SPECIAL (with GLADDY) [Taken from 7 inch vinyl released in Jamaica / 1987]

DISCOGRAPHY

[CD / LP]

"Still Echo"
[Overheat / CD & LP / 1987年]

"Flower"
[Overheat / LP & CD / 1987年]

"Lover’s Rock"
[Overheat / LP & CD / 1988年]

"March"
[Overheat / CD / 1989年]

 

"Mute Beat Dub Wise"
[Overheat / CD & LP / 1989年]

"Mute Beat Live"
[Overheat / CD / 1989年]

"No.0 Virgin Dub"
[Overheat / LP & CD / 1990年]

 

[Analog Single]

"Mute Beat"
[Pithecan / 8" Analog / 1983年]

"Mute Beat"
[Overheat / 12" Analog / 1986年]

"Still Echo"
[Overheat / 12" Analog / 1986年]

"Organ’s Melody"
[Overheat / 12" Analog / 1987年]

右写真)日本のレーベルが初めてジャマイカでリリースしたGladstone “Gladdy”Anderson/MUTE BEAT名義のレア7インチ。
ベストアルバムにて初CD化。
"Hat Dance"
[Overheat / 7" Analog / 1987年]
"Sunny Side Walk"
[Overheat / 12" Analog / 1988年]
"Something Special "

[Overheat / 7 " Analog / 1987年]
[Tape]
   

"Mute Beat TRA Special"
[TRA Project / Cassette / 1985年]

"Japanese Dub"
[Roir / Cassette / 1986年]

 

 

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