• OVERHEAT MUSIC

都築響一
夜露死苦現代詩2.0 ヒップホップの詩人たち

●そして、連載の最初には「崩れていく東京の権威」について言及され、「今一番面白い音やシャープな詩を書くアーティストはほとんど地方にいる」とされています。

都築:日本のヒップホップが気になってきたのは、本当に地方を巡ってということもありますし、東京に出てこない子たちもいるわけで、地方じゃないと買えないCDもあるわけでしょう。聴いてるとずっと思うのは、ヒップホップは都会の音楽じゃないですよね。でも田舎の音楽でもない。郊外の音楽なんですよ。サバーバン・カルチャーであって、大自然が生んだ音楽じゃないし、もの凄く都会的でもなく、都市の中心からちょっと外にあるんだけど団地街みたいな。それはアナーキー然り、本当に団地出身ってすごく多いじゃないですか。

●それこそブロンクスにおけるプロジェクトのような。

都築:日本ならプロジェクト=公営団地みたいなものですよね。だから面白い日本のヒップホップを聴いてるとね、その郊外感覚というものがすごいあります。そういうのっていうのは、都市の一番先端に行こうとしてきた人たちとはなかなか違うセンス。だからそういうのがわからないと取り上げ難いのかなという気はします。逆に、音楽の流行の先端はもうちょっと違うところにあると思います。そうじゃなくてヒマしてる子どもたちの、でも農作業まではしなくてよくて、金はないけどすごくないわけじゃないっていう、そういう気が、体験的にはしますよね。

●すぐ脇に都会を見つつ、そのちょっと外にいるという。

都築:実家率高いしね。何なんでしょうね、あれは(笑)。なんとなく実家があって、なんとなくすごい働かなくてもいいのかもしれない、そういうメンタリティってあるのかなという気はしますね。

●連載には社会不適合者というか、不良と同時に引き蘢りがちな子も出てきたりします。彼らの受け皿としてのヒップホップみたいな側面もありますか?

都築:でもすべてのアートってそうあるべきですからね。音楽に限らず、例えばポップ・アートだってそうだったわけで、例えば60年代のイギリスとかでは大学に行けない子たちがアート・スクールに行って、そこでミック・ジャガーとキース・リチャードが出会ったりするわけですよ。そういうところからポップ・アートも生まれたりする。だから本当は絵も音楽も、いいコースに乗れない人たちの救いの綱じゃないといけなかったと思うんですね。それがだんだん大きくなってビジネスや業界になっていくわけだけれども、出だしは常に、そういうはみ出しものがつくっていかないとやっぱりアートっていうのは面白くない。それが今の時代はヒップホップかもしれないということですよね。

●逮捕歴のあるラッパーも普通に登場します。

都築:だからといって別に色眼鏡でみるわけじゃないし、逮捕歴があるから偉いわけでもない。もう、一時みたいに「悪いこと自慢」でもないと思うんですね。それにそういうことをやっていると、ヒップホップという音楽が、悪い人が好きな人にしかアピールしていかなくなってしまう。もっと日常のことを歌えるようにならないと広がっていかないわけじゃないですか。それは例えば、夜中の3時にライブ・ハウスに行ける人は限られているように。だから色んな形態の詩の内容がないとおかしいと思うし、ワルだから偉いわけでもなく、でもワルだから閉ざされるというわけでもないところは、逆に言えばある意味ヒップホップが成熟してきたってことだと思います。つまり今まではもうちょっとワンパターンだった。悪いことをして、金があって、アメリカでつくられたある種の理想像みたいなものが、そのまま入ってきたわけじゃないですか。でも日本でシャンパン、コーク、リムジンという人はまずいない(笑)。あまりにリアリティないだろうっていうので、バイト生活で大変な毎日とか、そういうのを歌えるようになってきたというのが、表現として次の段階に来たっていう気がして。だから僕もこういう企画をやりたかったのかもしれないですね。

●地方の疲弊と中央の関係性みたいなことに関しては、例えば田我流氏と「サウダージ」という映画はその典型かなと思います。

都築:でもね、たぶん、地方は疲弊っていうほど疲弊してないんだよ(笑)。僕はそっちの方がポイントだと思います。東京から見ていると山梨は疲弊しているかもしれませんが、僕はそうやって地方の取材することもすごい多いけど、それこそ「サウダージ」に出てくるようなシャッター商店街でも、地方のおっさんたちにそんな危機感はない。東京から見て「これどうすんの」みたいな話になるんだけど、大体あれも2階に人が住んでるわけですよ。田舎の人はそれほど危機感は持ってなくて、むしろそっちの方が問題だと思う。

●そこに地方だからこその可能性が眠っている?

都築:この間は大牟田のクラブに行って来たんです。昔は三井三池炭坑という日本有数の巨大炭坑があって滅茶苦茶盛り上がったんですが、今は超シャッター商店街とシャッター・スナック街と化している。その中の十何年前に潰れたキャバレーを地元の子たちが借りて、そこにDJ入れたりして、ライブとかもやってるわけですよ。ノイズ・バンドとかが出て、高校生がそれを観に来て、夜の10時過ぎとかに制服でモッシュとかしてるわけ。セーラー服でそこら辺に転がったりしてて、こんなの東京だったら即補導とかクラブ閉鎖みたいなことでお終いなんですが、音もダダ漏れで、全部シャッター商店街だからそれもどうでもいいと。だからやれることはたくさんあるんですが、でもそれでも何も出てこないのは、田舎の方がメンタリティがぬるいんです。だから一概に、地方が疲弊してるから、反抗の中からヒップホップ出てきたというのとはちょっと違う感じが、感覚的には僕はします。

●あえて逆に、部外者の立場だからこそ、ヒップホップの世界にアドバイスみたいなものはありますか?

都築:やってる人には全然ないです。みんな頑張ってますし何もないですが、周辺の人はもっとサポートしてあげないとなと思いますね。今雑誌を創刊するのは大変だしお金がかかるけど、WEBだったらタダでできるわけじゃないですか。メールマガジンにするとか何でもいいから、やっぱメディアがないとダメだと思います。そうじゃないと、レコード屋に通ってフライヤーにチェックするとかしかできないもんね。それ、一番アナログでしょう?それでクラブ潰しとか言われてますけど、別に普通の夕方やればいいわけですよ。夜の8時とか9時にやればみんな来れるし、ちゃんと終電で帰れる。そうすれば風営法も何の問題もないんです。だって昔のディスコは大体12時にちゃんと終わっていたもん。椿ハウスだって何だって、ジュリアナだって12時に普通だったらお終い。もっとやりたい人はアンダーグラウンドでつくればいいわけで、文句言ってるより、できる時間帯にやればいいだけのことだと思うんだよね。次に連載に出てくる子も、昼間働いている子なんですよ。だから「クラブ行かないです」って言ってたもん。「朝から仕事あるし、ライブを夕方やってくれればいいですけど」って。

●やってる当事者からもそういう要望があると。

都築:だって始発で帰るってことは次の日無いわけでしょう。普通の生活をしている人は無理ですよね。

●そのハードルの高さが文化を鍛え上げたという側面は?

都築:あるとも思うけど、デメリットも多いと思います。ライブを観に行けない。CDもなかなか買えない。包括的に情報を得られるサイトもない。ということは、どんどん内に内に閉じていっちゃってると。配信とかでシステムはどんどん外に開かれて、お金をもらうシステムも自分たちでできるし可能性は広がっているのに、「どうせオレたちの音楽はわかるやつにしかわからない」という感じで閉じていくのは、すごいもったいないと思うんです。

(麹町の都築氏の事務所にて2012年6月20日)

必見!都築響一の有料メールマガジン
http://www.roadsiders.com/


ページ: 1 2