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映画『盆唄』が繋ぐ過去と未来

●映画は、国籍を超えて人々の中に鳴り響く太鼓、ブレイクビーツ、リズムの存在、重要性を示す作品に思えました。

IS:基本的に僕は、ディアスポラ文化に心惹かれます。今回の映画を観る前から「いいに違いない」と思えたのも、これは福島とハワイのディアスポラ文化が関連している音楽だから。かたや河内音頭みたいに土着のもので完成されているのは、言わばアメリカのヒップホップみたいなものというか。
 そういう意味で主流の、正真正銘の地元があってそこで成熟したものに対して、フクシマオンドのような、ディアスポラの系譜が文化的背景にある中で生き延びている音楽には、全然別の文脈に乗った魅力がないわけがないんです。

●石田さんの仰る「ディアスポラ」を、もう少し詳しく説明お願いできますか?

IS:例えばUKレゲエもディアスポラ的と言えます。ああいう寒いロンドンで、ASWADとかJAH SHAKAが出た『バビロン』という映画が1980年くらいにできるんだけど、僕は当時それを観て「イギリスのジャマイカ人を撮りに行かなくちゃ」と強く思いました。
 ジャマイカのジャマイカ人って、イギリスのジャマイカ人への理解がすごく低いというか、気持ちを全然わかっていない(笑)。まるでレゲエとパンクが仲良かったかのように誤解している人も多いけど、本当にレゲエとパンクの両方に親和性を持ってた人たちというのはごくごく一部、ドン・レッツの半径50メートルくらいにしかいなかったというか。だからDRY&HEAVYとかこだまさんみたいな音楽だって、ジャマイカ人にはまず理解できないと思うんです。
 そういった意味で、「時空間を移動して、離れたところでできるもの」には、だいたい惹かれるんですね。

IW:となると、故郷から離れたところで独自に発展したフクシマオンドはドンピシャですね。
 ハワイ島での踊りの場面で「べっちょ、べっちょ」と言ってるいるシーンがあります。あれは、東北弁で女性器のことを指しています。昔は「べっちょ踊り」と呼んでたみたいですが、今東北でそんな風に歌うところはありません。ハワイでも意味がわかって他の島では禁止され、今や世界でもあそこでだけ「べっちょ、べっちょ」と叫んでいるという(笑)。みんなそれで、「あんまり意味は伝えないようにしてる」とか少し恥ずかしそうにしてはいるんですが、そういう意味で、世界で唯一当時の伝統を守ってる場所だったりもするんです。

●映画でフクシマオンドは、ハワイに渡って戦争もあって抑圧された時期があり、でも実は富山からそもそも福島に来た時も抑圧されていたということが描かれています。レゲエも、アフリカから奴隷船でジャマイカに辿り着いた人々が、抑圧と差別の中で生み出したリズムだったことがその強靭さに繋がったと考えると、そこが共通項のように思えました。

IS:ジャマイカ人は西アフリカから来ています。西アフリカの音楽は、ハイライフとかマリの音楽はみんな高音がすごく伸びやかなものが多いのが、奴隷船を経由してジャマイカに着くとすごく低音になる傾向があります。
 モロッコのグナワも、サハラ以南の奴隷の末裔の音楽であり、それもすごく低音の音楽です。だから、奴隷として遠くまで連れて来られると低音が強い音楽になるのかもしれません。

IW:フクシマオンドに関しては、マウイへの移民が1885年頃から始まって、その15年後くらいから福島から人が渡り始めています。だからそこにはすでに先人がつくった移民社会があって、沖縄もだいたい同時期だったとのことです。後から行くと「方言がよくわからない」みたいなことで阻害されることも多く、そういう中で自分たちの言葉で語り、自分たちの唄を歌って、サトウキビ畑の中で盆踊りを始めたといいます。

IS:日系移民の人たちがサトウキビを栽培しながら盆唄を伝承していたというのは、アメリカ南部の黒人奴隷が綿花を紡ぎながら霊歌を歌っていたのと同じ感じを受けます。
 映画で、富山との繋がりが出てきたのは意表をつかれて驚きました。最初は一瞬、「要素が複雑になり過ぎて論点が曖昧になっちゃうのでは」と思ったんだけど、それを描くアニメもよくできていて、重要な要素として作品全体に効いてくる部分になっていました。

IW:監督曰く、あの部分が「希望を描いている」とのことでした。最初は私も、長くなるから反対したんです。でも、あれを入れるのは最終的には監督の判断で、撮影が全部終わってからアニメの製作がはじまって、尺も当初からどんどん長くなって。

●『盆唄』には福島や原発事故のこと、ハワイ移民、福島音頭の歴史、そして人間ドラマもあってそれこそ多様な要素が詰め込まれています。どの部分を一番汲み取って欲しいですか?

IW:ハワイに行くたびに思うのが、同世代の日系人でだいたい4、5世になるんですが、皆さん自分たちの先祖が何をしてきたか、しっかりと語り継いでいるんです。戦争の記憶もそんなに古いことではないし、例えば「これは2世の人のため」とか、先祖供養と盆踊りが直結しています。つまり、自分に繋がる過去をいつもすごく考えている人たちなんです。
 私も実際、マウイ太鼓のメンバーに「あなたのレガシーは何?」と聞かれたことがありました。そんな質問は日本で聞くことも聞かれることも考えたこともないし、でも彼らは、そういうことをいつも考えているんです。
 そして、横山さんや双葉の方々も、「これから盆唄をどう残していくか」という未来をすごく考えています。私は双方から、「自分に直接繋がる過去についてどれだけ考え知っているか、その長さが自分がイメージできる未来に反映される」ということを学びました。
 監督も、原発問題は「目の前で解決できることではなく、100年単位で考えなきゃいけないこと」ということを言っています。それで、土地を移り続ける移民の話を作品に盛り込んだのだと思っています。だから「未来を考えることは自分のルーツを考えること」であり、それをより深く知ろうとすることが、ある意味当たり前のことかもしれませんが、現代社会ではなかなか誰もできていないことだと思います。

●そもそもこの映画の存在は、岩根さんの「中身ある写真」が発端になっています。そしてその完成まで、お金も時間もすごくかかっているのは明らかです。いいクリエイティブ、人の心に響く作品というのは、やはりそれくらいの労力の末にできるものなんでしょうか?

IW:最初に、「マウイ太鼓としてツアーで福島に来てください」ということを突発的に提案して、彼らが「行く」と言ってくれた時、同時に自分の中では「やばい」と思ったんです。自分はツアーなんか組んだことないし、衝動的に言っちゃったら乗ってきてくれちゃって、結果的には東北6ヶ所を巡る大ツアーをすることができました。だからその時は「これでしばらく写真撮れないな」、「自分のプロジェクトが遠のくな」と思ったんです。
 でも、今振り返るとその時に出会った方々との縁で、写真を現像する拠点を福島県の三春町の旧桜中学校に構えられました。つまり、結果的には自分のプロジェクトにとっても一番の近道になったんです。 パノラマカメラはフィルムの長さが2メートルあるので横に長い流しが必要で、その環境に辿り着けたのもツアーのおかげでした。

 でもそれも、よく考えてみると私にとっては、石田さんと出会ったきっかっけにもなったDRY&HEAVYとの経験が活きてるように思います。インプロ的に突き進む、それは2000年の彼らのヨーロッパツアーについて行って学んだことです。「音楽の場にいて旅をしながら写真を撮ること」というか、結局20年前から自分は変わっていない(笑)。

IS:例えば大石始くんもそうだと言えると思うんだけど、レゲエ発盆踊り行きの人って結構いる気がしています(笑)。
 レゲエには確かに、例えば「ボブ・マーリーは天才だ」とか、何人か秀でたミュージシャンがいるんだけれど、他の欧米のほとんどの音楽はその作家の才能によって成立している率がすごく高い気がしています。それに対してレゲエとか盆踊りは、作家の才能とその土地とか文化の地力の拮抗の中から生まれている気がする。もちろん、やっているアーティストの才能もあるんだけど、その個人的な才能の比率よりも、「その土地に宿っているものの力をどれだけすくい取れるか」というところでできているという点で、似ているのかなと思います。

●だからこそ力があり、世代も性別も超えて皆が引き寄せられる。

IW:DRY&HEAVYドラムの七尾(茂大)さんに言われた、「太鼓というのは、裸足で立って叩くことで、その下にいる先祖を呼び起こすためのものだ」という言葉があって。
 盆踊りにはもともと死生観というか、死者に向けたお祭りということがプラス要素にあって、それは本当に古来から日本の魂にあるものだと感じていて。日系人の人たちがあのパノラマカメラで葬式の集合写真を撮っていたということも、「人が死んだ瞬間が何よりも大事」という感性がそうさせるというか。

IS:死者との対話というと、ジンバブエの「ムビラ」という親指ピアノだとか、マダガスカルのギターの音楽とか、レユニオン島のマロヤとか、アフリカ南部からインド洋の島々にかけての音楽はそういったものが多い。
 『ギターマダガスカル』(監督:亀井岳、2015)という映画で語られていることなんだけど、人間には4つ大事な瞬間があって、それは割礼、結婚式、葬式、もう一つは死んだ後何年後かに墓を掘り起こして対話するという、そしてその4つ目の時に演奏する音楽がすごく重要だということがあるんです。

IW:そういう風に、世界でも当たり前のことなのかもしれませんが、日本人の死に対する考え、姿勢が盆踊りに詰まっているし、それがこの映画『盆唄』で伝えたいことでもありました。

映画『盆唄』オフィシャルサイト
http://www.bitters.co.jp/bon-uta/
★ 2月15日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー!
★ フォーラム福島、まちポレいわきも同時公開!
http://www.bitters.co.jp/bon-uta/


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