• OVERHEAT MUSIC

今が、全盛期。初セルフタイトルアルバム、そして2枚組『THA BLUE HERB』 ILL-BOSSTINO


Text by BIOCRACY Photo by cherry chill will(ILL-BOSSTINO), Hajime Nohara

 3.11後、ILL-BOSSTINOのインタビューを敢行するのは何回目になるだろう。
 アルバム『TOTAL』、東北の被災地三ヶ所を巡ったDVD『PRAYERS』、ソロアルバム、本物の嵐を呼び込んだ野音ライブと、節目節目に聞いてきた話が、ある意味一つの必然として、初めてセルフタイトル『THA BLUE HERB』とした2枚組アルバムへと集約されていく感覚。
 今回、文中の「僕」と「オレ」は統一せず、あえてそのまま残した。これはその方が、話を直接伺いながら感じたアルバムに詰めた想い、リスナーへの真摯な姿勢、ここまで築き上げてきたもの、そして完成した作品への自負が、より生なバランスで伝わると判断したからだ。
 話を聞きながら、いつにも増して頭に浮かんできたのは『昭和残侠伝』の高倉健氏。なぜ『仁義なき闘い』の菅原文太氏や梅宮辰夫氏より、全共闘の時代に学生達のシンボルにもなった任侠の姿とILL-BOSSTINOが重なるのか。本人に直接聞くと「自分ではわからないね(笑)。それはいつか、オレも大人になってわかるようになったらいいな」との返答。
 答えは、インタビューの中に隠れているかもしれない。

●以前、野音の後のインタビューで、これから出すつもりの2枚組アルバムについて言及されていました。相変わらずの有言実行と思いました。

BOSS(以下、B):僕がラップを始めて、今までで一番の作品ができたよ。

●それは、毎回その感覚ではないですか?

B:毎回そうだし、今回もそうだね。しかも、思っていた以上のものができた。
ずっと「2枚組をつくりたい」とは思ってたけど、初めてだからどうなるかもわかっていなかった。でも、ベストなものができた。

●制作中、途中で引っ掛かったり、煮詰まったりはしましたか?

B:しないね。でも、アルバム制作とライブを交互にやってきたので、ライブからアルバム制作に入る時、「アルバムをつくろう」という、止まっていた車輪を動かして加速させなきゃならない、それが一番大変。それがトップスピードに入るまでが、めっちゃ大変なんだ。とはいえ、一旦トップスピードに入っちゃったらあとはやるだけだから。

●2枚組でも1MCというのは、最初から決まってた?

B:「他のラッパーに参加してもらう」って頭はまったくなかった。THA BLUE HERBとしては今の今まで一度もないし、それは絶対ないね。それ以外で、「誰かにコーラスで参加してもらおう」とかいろいろな案がなかったわけじゃないけど、やっていくうちに「言葉は全部オレで、ビートはO.N.Oで2枚組を創ってみたい」という気持ちが強くなって、そのままいった感じだね。

●そしてそれが、平成が終わり、令和になった絶妙なタイミングでドロップされると。

B:確かに僕らの世代が、「最初から最後まで見た」って意味では平成だよね。そして、令和の次を見れるかと言えば、わからない。
 僕的にはその時代の変わり目ってものに対しては特別な意識は全くなかったですね。

●初の2枚組がこのタイミングということには、特に思い入れもない。

B:まったくないね。なんて言うか、オレらにはオレらの時代があるから。
 そういう意味では、オレらの「ブルーハーブの時代」というのはまだまだ続いていて、その直線的な時代を生きているわけで、入れ物の箱の名前が変わったくらいなもので、何もないです。

●この2枚組には3.11を意識している言葉もたくさんあったなと思いました。平成に戦争はなかったかもしれないけれど、天災、人災にまみれた時代だったなと。

B:確かにそうだね。それでもやっぱり、平成とか令和みたいな枠の中でものを考えるってことはない。僕の人生で言ったら、それはもちろん3.11含め、いろいろなことを自分自身でつくっていくタイミングにはなっているんだけど、それが別に昭和だろうが関係ない。

●47歳になって、これだけのリリックを書いて2枚組のアルバムを完成させる体力、身体はどう維持してるんですか?

B:運動はめちゃめちゃしてるよ。でもリリックは毎日出るものだから。だからいいだけ書く、その繰り返しだよ。それだけ。それは最初から変わらない。
 とにかくリリックは、この歳までやってるんでいくらでも書こうと思えば書ける。そこに葛藤もなくて、書きたいと思えば書ける。いい曲だって、つくろうと思えばつくれる。要するに、オレがやる気になるかどうかの問題で、だからよく聞く「降りてくるのを待ってる」とか、そんなことはまったくない。創るべくして創る、書くべくして書く、それだけ。

●聴いていて、ドラマチックな曲が次から次にできてくる感覚を受けます。

B:その源泉がどこにあるかというと、それは「日常に対する注意力」です。

 誰のまわりにだって、ドラマチックなことはいくらでもある。オレには子どもがいないからその辺の話はわからないけど、きっと子どもとの日々なんて驚きや感動の毎日じゃないですか。毎日毎日違うことが起きて。でも、実はそれだけじゃないんだよね。
 友達のこととか、親のこととか、世界のこととか、感動できることなんてどこにでもあるんですよ。だから、そこに対する注意力さえ研ぎ澄ましていれば、世の中にドラマチックなことなんていくらでもあるっていうか。そう思う。
 だから、今回のアルバムはそういう感じです。満員電車で通勤してる人の景色もあれば、女性の話もあるし、それはすべて僕のアンテナに引っ掛かったたくさんの人間のエピソードを組み合わせて楽曲にしていっているので。
 日常的にそういう面白い話、いい話とか、悲しい話とか、それは世の中に溢れてますよ。

●そしてその感覚を研ぎ澄ましてくれるのが、同業者であるライバルたちだというリリックがありました。

B:そうとも言える。それは「ヒップホップ」という小さな世界で言えばだけどね。すごいアーティストはたくさんいるし、例えばそれは昭和(レコード)の3人や、フリースタイルバトルが盛り上がれば盛り上がるほど、僕の中で「じゃあ、オレに何ができるんだ」っていう気持ちが、比例して大きくなるし。自分にも、すべては影響しています。

●ラッパーたち以外ではどんな存在に、 例えば作家とか詩人、職人なのか、自分のやられていることを投影していますか?

B:そんなのいくらでもいるよ。それは全然、普通の人です。インスピレーションの元って話をすれば、Twitterだって溢れてるし、新聞の投書だってメチャメチャ溢れています。
 今日の新聞の投書にだって、息子がダウン症で、普通のことが出来なかったりするけど「歌が大好きで」って。歌をすごく大切にしてて、いつも歌ってて、お母さんが辛い時にも歌ってくれて元気が出て、その子の兄弟の結婚式で長渕の『乾杯』を大きい声で歌ったら会場全員が感動したって。
 これ、オレはすごく感動するし、そのシーンを想像するだけでリリックになる。

●注意力さえ払っていれば、どんなやつの人生にもドラマが詰まっている。

B:そう思う。だって、それがヒップホップでしょ。
 ヒップホップは、街のフッドで何が起きてるか、そこをどうやって抜き取って書いていくか。オレが最初に向こうのヒップホップで好きだったのは、それ。
 ゲットーの黒人が、どういう生活をしてどういうクールな会話しているのかってことを知った時に「あぁ、マジで格好いいな」って思った。

●そういう風に捉えていれば、ラップするネタが尽きることはない。

B:ない。生きてりゃ、いい。街に生きていればいいんです。
 だから僕、自然の中に行くと書けないし、書かないんです。山とか海とか、自然の中に身を投じてしまうと、何も書けないんだよね。やっぱりネタは街の中にあって、人間なんだよね。 
 「47歳しか歌えないことって何ですか?」みたいなことを聞かれるけど、きっとたぶん57歳になっても67歳になっても、同じだけのことがあるんだよ。だってそれはみんなそれぞれの人生なんだから。

▼▼次のページへ▼▼


ページ: 1 2