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グラディの 『カリビアン・ブリーズ』

●グラディは、ストレンジャー・コールとのデュエット「Just Like A river」のヒット曲やOVERHEATからのアルバム『Don’t Look Back』ではシンガーですよね。しかしこの『カリビアン・ブリーズ』はインストですよね?

EC:その頃俺がマネージメントしてたMute BeatがインストのDUBバンドで、オーガスタス・パブロも出してたし、他にもシュガー・ベリーのインストも出す予定だったから、インストを作りたかった。インストは売れないって言われてたけどそんなことはないし、インストが好きだね。このアルバムのあとだってグラディのインスト『ピアノ・イン・ハーモニー』、ローランド・アルフォンソの『ワイルド・ブレンド』もインスト、最近だって巽朗もMatt Soundsもインストで、めちゃくちゃいいアルバムだよ。
Mute Beatは、全員音楽性が高かった。ニュー・ウェーブ、パンク、Hip Hop、レゲエ、ファンクなどを好きなツワモノ集団がMute Beat。事務所の俺も知ったかぶりして着いて行くのが良い意味で大変でね(笑)。
宮崎(DMX)くんが開発に関わったからってディスコ・ミキサーを売りに現れたり、Gota(屋敷豪太)は、打ち込みを始めて「マニピュレーターです」みたいなことを言い始めたり、こだまくんはレゲエの良いアルバムに詳しいし、80年代後半とはいえ、みんな鋭かったよね。
ベースの松永(孝義)くんは音大出のロック・ベーシストでありアルゼンチン・タンゴやレゲエのベーシスト、それに無口だけど頭はいいからちょっと怖い(笑)。
あるとき事務所に一人でいた時だけど、グラディにもらった埃まみれのリン・テイトの『Rocksteady Greatest Hits』ってLPを水道の水で洗って少しシャリシャリするのを「いいなァ」って爆音で聴いてたんだ。そこにひょっこり松永くんが現れて、俺はちょっとアセったね。さっきも言ったようにMute BeatはタフでストロングでクリエイティブなライブDUBバンド。インストのエレベーター・ミュージックみたいなのを聴いてるところを見られたくなくて、俺はとっさに「これどうよ?」って聴いたんだ。すると松永くんは「最高です!」って拳を突き上げて言ったんだよ。あれ?脇道に逸れたか?
このバンドもインストなんだよ、このリン・テイト&ザ・ジェッツというバンドも。グラディはこのバンドのメンバーで全面参加していて、そんな風にグラディを入り口にしてジャマイカの60年代の音楽の虜になっていたから、グラディのアルバムを作りたいと思うのは自然なことだったんだ、今思うと。

●“グラディ”アンダーソンという人はどういう人物でしたか?

EC:映画のRuffn’ Tuffでグラディ本人も言ってるけど、周りの人が言うようにデューク・リードのトレジャー・アイル・レコードの音楽的な柱だったんだろうね。
人としては本当の音楽バカってことかな。すごく正直な人でピアノを弾いていたら何も要らない人。1度我が家にも来たことがあって、娘の部屋のドアがちょっとだけ開いててピアノがちらっと見えたんだ。俺でも入らない娘の部屋にだよ、ピアノ中毒者のグラディがいきなり吸い寄せられて(笑)、ピアノの前に座ると、ひと呼吸して鍵盤を愛でるように眺めてからブギウギを弾きだした。そういう人。Ruffn’ Tuffの中でも全く同じシーンがあるんだ。アクエリアス・スタジオにピアノがあるって連絡がきて、じゃあそこでグラディにピアノを弾いてもらおうと連れて行った。まだこっちは撮影の準備ができていないのに、ピアノに吸い寄せられて「ブギウギからスカが・・」っていきなり弾いてしゃべり出すんだ。だからその映像には俺の声で「グラディ、ウエイト、ウエイト」って言ってるのが入っちゃってるんだよ(笑)。そういうシーンもやり直しみたいなことはあえて全くやらずにそのままの撮影なんだ。
でも逆にレコーディングの時にはすごくシビアな人。ある種の鬼になるようなところもあったね。

●それはいつ頃の話ですか?

EC:たぶん1992年だったと思う。カールトン&ザ・シューズやザ・メロディアンズのブレン・ダウなどを来日させたクアトロの「The Rock Steady Night」の時だったと思う。

●ということは、この『カリビアン・ブリーズ』をリリースした後ですね?

EC:そうCDだけどね。だから、グラディとしてはOVERHEATレコードの3枚目になるね。
この時期というのはCD全盛の時代でね、アナログはリリースできなかった。このアルバムは絶対にアナログのための音なんだけど、レコード店からはアナログの棚が全部消え去った時代。
ようやく31年目にしてアナログでリリースできた。それもオリジナルのマスターからだから、本望だよ。これに参加してるナンボ・ロビンソンもグラディも、もう亡くなって、こんな自由なアルバムはもう作れないね。

●“自由なアルバム”とはどういう意味ですか?

EC:う〜ん、売りたいとか、売ろうとか、売れてる人を目標にとか全く考えて無かった。作りたいものを作るというインディーズならではの“正しいアルバム”ってこと。ジャマイカのレーベルは全部がインディーズ。たまにはアメリカやイギリスの資本で作られるのもあるけど、それは当然欧米のマーケットを意識している。
しかしこのグラディの『カリビアン・ブリーズ』は、現地ジャマイカさえ意識してなかったんだね(笑)、今考えると。
だってこの頃のジャマイカだったら、打ち込みが主流だし、ダンスホール・スタイルだったし、ヴォーカルものだったんだよ(笑)。しかし、無いものを作ってこそアーティストだから。
そうはいってもドラムにはスティーリィ&クリーヴィのクリーヴィ・ブラウン、つまり当時の打ち込みトラックの半分くらいをやってた男。彼ら自身は「ヒット曲の80%が俺たちのトラックだ」って豪語してたからね。グラディはそのドラムをちゃんと連れてきてた。単なる懐古趣味のアルバムを作る気はさらさら無いのがグラディ。

2015年に81歳で亡くなってしまうんだけど、その前年の12月に「具合が悪い」って娘さんのエリカから連絡が入って、俺はパスポートが切れてて、正月明けに速攻でパスポートを取ってそのまま空港、キングストンまですっ飛んで行ったら、すごく痩せて足が腕みたいに細くなってて自分ではもう起き上がれないほど弱って目も見えないしあまり話せなくなっていた。
俺の耳元で本当に小さいかすれる声をふりしぼって「もっとお前とレコーディングしたい」って、そういう男だった。
スライ・ダンバーとか、イギリスのデニス・ボーヴェルとか色々な人にグラディについてコメントをもらったことがあるんだけど、みんなが「オリジナルのピアノだ」っていうことで一致するんだよ。つまり、グラディの音楽は流行りとは無縁の普遍だということ。

●では、超基本的なことを聞きますけど、レゲエの魅力って何ですか?

EC:人それぞれ違うだろうけど、俺にはスーパーだってことかな。スーパーマンのスーパー。万能。踊って良し、聴いて良し、超おしゃれな店内でDUBが流れていてもハマるよね? この30年も経ったグラディのピアノ・アルバムもそういう1枚だと思う。古いとか新しいとか関係なくいつの時代でもどこの国でも聴ける。

>>LP『Caribbean Breeze』の詳しいことは



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