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新バンドでルーツに迫る 今野英明


Text by Hajime Oishi 大石始

 森俊也や小粥鉄人など現在も日本のレゲエ・シーンを支える敏腕たちも参加していた名ロックステディ・バンド、ROCKING TIMEの一員として麗しい歌声を聴かせてきた今野英明。2004年に同バンド解散以降は弾き語りを中心とするソロ活動に軸足を置いてきた今野だったが、その彼が久々のバンド活動を再開。メンバーはヤマグチユキノリ(ハモンド・オルガン/FULL SWINGほか)、モッチェ永井(ベース/eskargot miles)など今野よりも年下の世代。今野英明&Walking Rhythmとしてリリースされた初アルバム『Walking Rhythm』には、ROCKING TIME時代のファンも涙するロックステディからそのルーツにあるソウルやニューオーリンズR&B、さらにはファンクやブルースも散りばめられ、<今野英明とその仲間たちによるリズム探検記>といった雰囲気の作品となった。
 そんなわけで、ROCKING TIME以降の心の葛藤や震災以降の思いまで今野の本音も盛り込まれたロング・インタヴューをお届けしよう。味わい深い力作『Walking Rhythm』に耳を傾けながら、ゆったりとした気持ちで読み進めていただければ幸いだ。

●Walking Rhythmとして活動を始めたのはいつぐらいからなんですか。

今野英明(以下、今):ちょうど1年ぐらい前ですかね。去年の春ぐらいが初ライヴで、その前に急遽集めたバンドだったんですよ。ベースの永井くんとギターの八木橋(恒治/bogalusa)くんとはそれまでも時々やってたんですけど、ライヴハウスから話がきたんで、だったらバンドでやってみたいと。このメンバーだったら今までやりたかったことができるなと思って僕が盛り上がっちゃって。

●このバンドの前は弾き語りやソロの活動が中心でしたよね。ROCKING TIME解散以降、バンドでの活動に気持ちが向かわなかったのはなぜ?

今:まあ、バンド活動にくたびれてしまったこともあったんですが……<踊れる音楽をやりたい>っていう欲求がだんだん高まっていたんでしょうね。特に震災以降、<本当にやりたい音楽ってどういうものなんだろう?>って自問自答していたところもあって。人がなんと言おうと、売れようと・売れまいとやりたいことをやろうと思ったんです。

●もう一度バンドをやるにあたって不安はなかったんですか。

今:ありましたよ、もちろん。<また始まっちゃうのか>っていう(笑)。バンドって奇跡みたいなものだと思うんですね。バジェットがあって、いいミュージシャンを連れてくれば最高のバンドになるかっていうと、そう簡単なことでもない。音楽に時間を割ける環境があって、同じような音楽で盛り上がれるメンバーが集まるのは本当に難しいんですよ。ROCKING TIMEについても<なんで止めちゃったんですか?>ってよく聞かれるんですけど、<よく9年もやったね>って誰かに褒めてもらいたいぐらい(笑)。今回は出会いに勇気づけられましたね。だってウッドベースとハモンド・オルガンが常にいるバンドって、ものすごくリッチなことじゃないですか。<だったらこれもできるし、あれもできるな!>って盛り上がったんですね。

●今回のアルバム『Walking Rhythm』、音楽性がとても幅広いですよね。これまで表に出てこなかった今野さんのルーツが出てますけど、それもバンドとのやりとりから引き出されたものなんでしょうか。

今:それもあるでしょうけど、僕はもともと(忌野)清志郎やタジ・マハール、松竹谷清さんのように<ジャンル関係なくその人の歌になっちゃう>というアーティストになれればと思ってるんですね。でも、若いころは<ゲームのルール>を決めないといけないところがあって。その一方では昔からいろんな音楽が好きだったし、<どんな音楽でも自分の音楽にできるはず>と思ってやってたんですね。ROCKING TIME時代ももちろんロックステディは大好きなんだけど、俺が歌うと<ロックステディ>っていう言葉がどこかにいっちゃうんですよ。

●ロックステディっていう<ゲームのルール>にこだわりつつも、今野さんが歌うとそのルールに囚われないものになる、と。

今:そうだといいなと思ってるんですけどね。昔からブラック・ミュージックが好きなんだけど、そもそも黒人ぽく歌いたいわけじゃないんですよ。だって僕は昭和40年代に団地で育って、黒人になりたいわけでもなくて。だから、今回のアルバムに関していえば、これまで聴いてきたものをこのメンバーで濾過したらこうなったっていうことだと思うんですね。

●今回はそれぞれの楽曲の細かい部分もお聞きしたいと思ってるんですが、1曲目の“晴れた日”はヘプトーンズ“Why Did You Leave Me”のベースラインを使ってますね。

今:そうですね。ROCKING TIMEでやっててもおかしくないような曲だと思う。今回結構暖めていた曲も多くて、これもそうなんです。

●今まで形にできなかったけど、このバンドだったらできるんじゃないかと?

今:そうですね。あと、このメンバーでやったらどうなるんだろう?と思って。レゲエ・マニアがやるレゲエって、分かっちゃうんですよ。<ああ、リー・ペリーが好きなんだね>みたいな。でも、自分でやるときはそうじゃないものをやりたいんです。

●<レゲエ・マニアがやるレゲエじゃないものをやりたい>という気持ちは以前からあったものなんですか。

今:聴くのは大好きなんですよ。例えばSKA FLAMESはいい意味でスカ・マニアがやってるスカ・バンドですけど、昔から大好きなんです。ROCKING TIMEも最初はそういう感じで、スタジオ・ワンのカヴァーばっかりやってたんですけど、さっきも言ったように僕が日本語で歌うとマニアックな部分がどこかにいっちゃうんですね。僕、松竹谷清さんが師匠だと思ってるんですけど、清さんは<世界中の人が自分の母国語で歌ってるんだから、自分もそうしたい>ということで、最近のライヴではスタンダードを全部日本語にして歌ってるんですよ。それがまた独特すぎて、原曲とは似ても似つかない感じになってて最高で(笑)。そういう感じにできればいいなと思ってるんですよ。ブラック・ミュージックをやりたくてどんどん専門的に研究していっても、僕の場合は遠ざかっていっちゃう気がする。

●遠ざかる?

今:<黒人独特のノリを出したい>とこだわっていっても、もともと持ってるリズム感が違うわけで、いくら研究しても黒人にはなれないわけですよね。だからロックステディを研究してロックステディをやるんじゃなくて、ジャズやリズム&ブルースなどいろんな音楽を聴いてロックステディをクリエイトした人たちの<気持ちの部分>をカヴァーしたいんです。

●なるほど。今回ソウル調の曲もありますけど、スタックスみたいなバックでオーティス・レディングみたいに歌ってるわけでもないですもんね。

今:ブラック・ミュージック追求型じゃないんですよ、僕は。自分のなかにマニア気質がない。いろんな音楽の美味しい部分を楽しみたいんです。

●2曲目の“いつも一緒”はシンプルなロックステディで、これも素晴らしいですね。

今:ロックステディにはやっぱり思い入れもあるし、自分のなかでスペシャルなんですよ。性格的にもあまり早いものだと合わなくて、歩くぐらいのテンポがちょうどいい。それでWALKING RHYTHMっていうバンド名にしたんです。

●3曲目の“どこかに消えた”はROCKING TIMEのセルフ・カヴァーで。

今:もともと早いスカでやっていたものをミッドテンポでやってみようと。こんなリズムでやってみたいというアイデアは前からあったんですよ。あと、自分のなかでAORとかフュージョンみたいなアーバンな音が最近ブームで。この前もジョージィ・フェイムとベン・シドランのライヴに行ってシビれまくったんですけど、自分のなかではそういう感じのリズム。アコースティック・ソウルというかね。

●AORは最近聴くようになったんですか。

今:いや、昔から好きは好きだったんですけど、ニック・デカロとかマイケル・フランクスがしっくりくるようになったというか。あと、最近そういう雰囲気がちょっとありますよね。知り合いの一十三十一ちゃんのアルバムもコンテンポラリー・ソウルみたいな感じですごく良かったし。

●“真夜中に”は一転、今野さんのブルースハープが唸る濃厚なブルースですね。

今:これはもう……JIROKICHI(註:高円寺のブルース専門ライヴハウス)に通っていた若いころを思い出したような曲というか(笑)。単純な3コードの曲、昔はどうやっていいか分からなかったんですよ。そういうのが一番難しい。最近になってこういう曲をやってみてもいいのかなと思うようになって。

●でも、今野さんが歌うと単純な3コードのブルースにはならないですね。

今:黒人じゃない人がどう黒人音楽にアプローチするのか、ジョージィ・フェイムとかモーズ・アリソンを聴いてると参考になるんですよね。無理してシャウトしなくてもいい、というか。曲調としてはファンキーなブルースなんですけど、別に唸らなくてもいいんじゃないかと思ってこう歌ったんです。

●別にハウリン・ウルフみたいにダミ声じゃなくてもいい、と。

今:そうそう(笑)。今回のアルバムに関して何人かが<オザケンを思い出した>って言ってくれたんですけど、確かに彼とは年も近いし、影響を受けてるかもしれない。彼のまったく気合いの入ってない<グッゴー>は当時衝撃受けましたし(笑)、彼の『Life』(1994年作)はすごく好きでした。

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