一夜限りの宴にしては豪華過ぎるミュージシャンを従えた松永孝義の初アルバム・リリース・ライヴ。観客の層は若い人から、それなりの人生の強者までが押し寄せた。本号では、その中でも執筆、ミュージシャンに加え、ブコウスキー街道ばく進中の中川五郎が寄稿。

 メインマンとは、俗語で、大黒柱、ボス、人気者、彼氏、夫、親友といった意味。もちろん言葉どおりの中心人物という意味もある。改めて言うまでもなく、このメインマンというのは松永孝義さんの46歳でのデビュー・アルバムのタイトルだ。正確には『The Main Man』。このタイトルがどこから出てきたのかはわからないが、これがまさに言い得て妙で、松永さんのことを、そして彼のアルバムのことを、一言で見事に言い切っている言葉だとぼくは思う。

松永さん本人を知る人なら、彼がとても穏やかでシャイな人だとみんなよくわかっている。ジェントルマンではあっても、威張ったり親分肌を吹かせるようなメインマンでは決してない。しかし彼がひとたびベースを抱え、音楽の中に入っていけば、重く太く安定した、それでいて心地よいグルーブを作り出すしなやかでのびやかなその音で、たちどころに音楽の中心人物、大黒柱となるのだ。見た目は慎み深く控え目、しかしベースを手にすると音楽の大黒柱。松永さんのソロ・アルバムのタイトルに『The Main Man』という言葉を選んだ人は、誰であれ、彼の本質がとてもよくわかっている人なのだとぼくは思う。

 7月16日の夜に原宿のアストロ・ホールで行なわれた『The Main Man』発売記念コンサートも、松永さんの真のメインマンぶりを鮮やかに伝える内容だった。メインマンであるはずの松永さんはステージの上手後方に位置し、そこでエレクトリック・ベースやウッド・ベースを弾いたりする。しかしステージに登場したミュージシャンみんなが、彼の出す音に身を任せ、心を預け、完全に信頼し、頼り切っていることがよくわかる。当日演奏されたすべての音楽のメインに位置し、すべてのミュージシャンの愛や信頼、リスペクトを受けとめ、彼らにもっと大きな愛や信頼、リスペクトを返していたのが、The Main Man=松永孝義で、コンサートでの彼を見ていると、メインマンどころか、大地の母のようにも、慈母のようにも、菩薩のようにも、はたまた観世音のようにもぼくには思えてしまった。

 コンサートには、アルバムにも参加している松永さんと親交の深いミュージシャンがたくさん登場し、主にアルバムの収録曲が演奏されていった。とりわけぼくが感動したのは宮武希さんの歌で、アルバムにも収められている2曲を彼女は歌ったのだが、その歌からは、それこそあらゆる意味での自分のメインマンを完全に信頼し、その人のソロ・デビューを心から祝福し、心から喜び、感激もしている彼女の熱い思いがまっすぐに伝わってきた。もちろん松竹谷清さんやカルメン・マキさんの歌も、それにミュージシャンみんなの演奏も、やはり松永さんの慈愛の光に包まれていたのか、とても熱く美しいものとなっていた。「音は人なり」であり、「人は音なり」ということを改めて教えられた一夜だった。





"The Main Man"
松永孝義
[Overheat / OVE-0091]