レゲエに人生の全てを賭けてしまった“レゲエ馬鹿”、H-Manの“馬鹿”シリーズ第三弾『レゲエ馬鹿三昧』が5/25、満を持してリリース。確かなDee-Jay、確かなリリックス、確かなサウンドが見事に融合し、“レゲエ馬鹿”なら必ずや膝をポンっと打ちたくなる一枚となった。

 H-Manの言う“馬鹿”には大別して2つの意味がある、と筆者は勝手に受け止めている。まず一つにはH-Manが自身を含めた“重度のレゲエ・ファン”のことを指すものであり、Crazyと同義的な意味での馬鹿。アントニオ猪木ではないが、そこには「(もっともっと)馬鹿になれ!」というメッセージもしっかり含まれている。1stアルバムのタイトル『レゲエ馬鹿道場』もまさにその使用例(?)だったのだが、それは“歌い手”“送り手”がどこまでこの文化を体と頭で理解しなければ成り立たないか、ということをも端的に示しているのだ。

 「何だよ本当にこの音楽/爆音ダクダク更にデカく/話は短くだけど長く/へらない口を更に叩く」(「ランブ・ジャンプ・ダンス」より)
 そして残るもう一つは、前作での「馬鹿な話」の様な“疑いの目”で言う「バカな…」。“毎度毎度バカバカしい話で申し訳ありませんが、世の中本当おかしな話ばっかり、でしてねぇ〜”という枕から始まるその曲はH-Man“ならでは”の世相を斬ったリリック(斬ろうとしたけどやめとくやっぱ なぜなら話は脱線ばっか、というフレーズこそあれど)で聴かせるものだった。同作には他にもRankin Taxiとの「戦争やだな!!」という、“戦争という名の大義名分の暴力行為”に強烈な異議を喩えるコンシャス・チューンも収められていたが、H-Manの視点/論点が多くの共感を集めたのは、それがレゲエだからという理由での“アリ/ナシ”ではなく、彼自身の判断基準に基づいたものであったことが聴き手に伝わってきたからに違いない(と信じたい)。

その意味でも彼の多彩な馬鹿話には首尾一貫したものを感じる。それはあの(元プロレスラーの)前田日明が“天龍さんと武藤敬司は一貫してるよね”と認めた“理由”とも相通じるような…。だからと言ってここで強引にH-Manが明るく、楽しく、激しい…という故ジャイアント馬鹿、いや、馬場さんのパンチライン(と言うか全日本プロレスのモットー)を持ち出すつもりはないのだが。あっ、これこそ“脱線”か!? どおもスイマセン。

 閑話休題。そんなH-Manの約1年ぶりのリリースとなる最新作がこのアルバム。題して『レゲエ馬鹿三昧』。三枚目にして三昧とは流石はH-Man!とまずは膝頭をポーンと打って頂いたところで簡単に全曲紹介をしておこう。

 “即発曲”は都合5曲。“7インチのみでのリリース曲”は、“ライフスタイル”より昨年出た「お能でポン」(Papa B「お経でポン」へのアンサー・ソング?)に、本作からの先行カットされた "Reggaelypso" オケの「ハイドウドウ」(制作はレッドローズ。このトラックでの日本人RECは勿論H-Manが初)の2曲となり、“コンピレーション”参加曲は、Hase-Tプロデュースの『Dancehall Premire 2』が初出となる「キラケラ」と、“V.I.Pインターナショナル”の『Dazzlin Gold』収録の「一騎打ち」の2曲。そこに、ホーム・グロウンの3rd作『Time Is Reggae』収録の人気曲「アップアップ!」(ショウでも“これでもか!”とばかりに盛り上がる“あの曲”!)がダメ押し的に…。これだけ耳馴染みのある人気曲が絶妙な順番で収まっているだけでもアルバムの印象は変わってくるものだが、他の7曲の出来がまた“ネクスト・レヴェルのレゲエ馬鹿 ”そのもので頼もしい限り、なのだ。

スティーリー&クリーヴィによる“定番”の "Real Rock" リディムに乗せて放たれる“馬鹿シリーズ”第三弾のアルバム・タイトル・トラックから、“東京No.1プラチナム・サウンド”SunsetKirk Benettがトラック制作を担当した続く「まだまだ」では“レゲエ初心者”にもやさしく(?)時に飛びハネながら(?)講釈。う〜む、コトバアソビの極み、デス。“踊り”の曲ならば次に控えしジョシュア・マニング(現在はベレス・ハモンドのバンドでキーボードを担当している人物)作 "The China Claw" オケでの進化した“語り芸”が光る「ランブ・ジャンプ・ダンス」がまさにそれ。そして「キラケラ」「ハイドウドウ」の後に配置された「ゴリ押し」はH-ManのレゲエDee Jayスタイルの源泉が確認出来るレイドバックした仕上がりなのが嬉しい。

ディーン・フレイザーのサックスも涼し気なレベル・ミックス・バンドによる "Young & Old" オケ曲、という点も馬鹿レヴェル高し! ニュー・スタイリー的な要素が噴出したチューンでは続く「1-2-3」が白眉だろう。ダニー・ブラウニー作のコミカルなブギウギ調の "Girls Fun" オケで言葉の乗せ方、間の取り方からオチの付け方の巧みさをコンパクトに披露。“思わず間違う押しボタン/でも緊急以外は押しちゃイカン/だけれど言うことキカン股間/押してもいいかな可愛いコちゃん/って押したとたんに…ビタン!/その上言われる、“チカン”!/それでもそんなの「知らん」”という秀逸な馬鹿ライン有。次のシングルは「レゲエ馬鹿三昧」とこの曲(どちらも7inchカットが決定!!)でこちらはPVも制作されているらしいので期待しよう(って言っても胸ポチのことじゃないですから)。

前出の「一騎打ち」「アップアップ!」を挟んでの「青空」は、ホーム・グロウンによるノビノビとしたスカ・トラックに乗せてKeycoがいつもとは違うアーリー・ジャマイカンな歌唱法(そう言えば「My Boy Lollipop」を演ったばかり、とか)で絡んだモノ。ダンスホール馬鹿サークル外でも話題になりそうないなたい歌謡性が最高の一曲。「ヨシズミ君の言っていた…」という下りも流行りそうな予感。因にコレ、天気馬鹿(?)のハナシ。そしてオーラスの「手紙」は再度登場のスティ・クリによる "Should I" オケに乗せて、“手紙の一つも書けるなら…”と離れ離れになった人たちに送った馬鹿真面目なメッセージ・ソングとなっている。

と、前2作以上のバラエティで、更に芸の幅を拡げたレゲエ馬鹿道場師範H-Man。ミックスはボビー・デジタルやリチャード・ブラウニー、コリン・バルビー・ヨーク等がJAで行い、音の太さや抜きもバッチリな、現行シーンの温度もしっかり感じさせるものとなっている。あとは皆さんのうましか(馬鹿)、いや、確かな耳と体でお試しあれ。(PS. しかし、馬鹿、バカと一体何回書いたことやら…)



"レゲエ馬鹿三昧"
H-Man
[Overheat / OVE-0092]