Dry & Heavyの歌姫、Likkle Maiが遂にソロ・シンガーとしてのキャリアをスタート。レゲエの枠組みに捉われず、自身のルーツに真摯に向き合ったファースト・ソロ・アルバム『Roots Candy』をリリースし、新たな道を模索し始めた彼女に話を聞いた。

「プレッシャーは……無いっていったらウソだけど、楽しんでますね。全部がチャンスだと思ってますし、30代の新人シンガーだと思ってるから(笑)」

 Dry & Heavyのヴォーカリストとして国内外を問わず高い評価を得ていた彼女が、バンドを離れソロのシンガーとしての道を歩み始めたと聞いた時、本当にワクワクした。

 確実なキャリアに甘んじることなく自分の足で歩み始めたその真意はどこにあるのだろう?

 「Dry & Heavyをやりつつ、でも、やっぱり私はシンガーじゃないですか? それで曲を創ることも大好きだから、1人でやったらこういう曲をやりたいなっていうのを7〜8年前から沢山録っていて、その中でもこれは絶対時を越えて『良い!』っていうものだけをピックアップして。……ここ2〜3年くらいはアコースティックにこだわって(ライヴを)やってきたんですけど、お客さんもアコースティックになるとより詩とか歌メロとかを意識してくれるし、自分の歌とも向き合えるし。ようやくそれが自分にとって大きな財産になってきてるなっていう実感があって。やっぱり、アコースティックをやった上でバンドとかラバダブとかやってくと、また更に違うレベルに持っていけるというか」

 そんな、Likkle Maiの過去と未来を繋ぐソロ・アルバム。ずっぽりとレゲエに浸かった作品に仕上がってるのかと思いきや、冒頭を飾る「My Old Flame」から、地を這うGomaのディジュリドゥで幕を開け、東洋的な旋律が飛び込んできて……。

 「この曲は、私の中のオリエンタリズムを出したいなぁって思ってたので、シタールとかでやりたいっていうイメージがあったんですよ。福岡の野外のイヴェントで、“My Old Flame”をまだデモの段階の時に歌った時、Gomaちゃんが『マイちゃん、この曲カッコイイ。やらして』とか声をかけてきてくれて。ディジュリドゥってアボリジニーの楽器だから、またオリエンタルとは違うんだけど、あの人の音は凄く東洋的な湿度を持ってるじゃないですか? だからこの曲には絶対ハマるなって思って」

 そう、先行シングルで魅せてくれたラヴァーズ「Your Pocket」や、ルーツ・レゲエ・ナンバー「Rock To Sleep」のように、それまでの彼女の匂いを感じさせてくれる楽曲だけでなく、「Gypsy Woman」、「朽ち果てぬ光」、「あのうみのうた」などでは日本語詩も積極的に取り入れているし、「Velvet Valley」では、誤解を恐れずに言えばそこにオルタナティブ・ロックさえ感じるのだ。

 「(どれも)揺るがないくらい自分のやりたいことだからやったし。逆に、今までと同じことをやってたら、それこそDry & Heavyにいればいいじゃんってことになるじゃないですか?(笑)
だからこの『Roots Candy』にそれこそ日本語の曲も、レゲエじゃない曲もあるってことは、日本人のルーツまで考えたからってことで、私が子供の頃に聴いていた歌謡曲は凄いオリエンタルでいい曲があったと思うし、今の歌謡曲は言葉の据わりが悪かったりとか、CMの15秒しか曲として成り立ってないっていう凄い不自然な日本語の曲じゃなくって、私ならこうやるなっていうものを提示したかったし。自分の中ではLikkle Maiの育ってきたルーツから全部入ってるみたいな……」

 芯にあるレゲエというバック・ボーンが太く揺るがないからこそ、よりフレキシブルに自身のルーツに真摯に向き合えており、それがまた彼女の魅力を芳醇なものへと熟成させている。

 「レゲエもクラブ音楽もコンセプチュアルになりすぎたなって思うんですよ。レゲエって凄い斬新なミクスチャー音楽なんですけど、レゲエがレゲエの枠から飛び越えていってないなって最近思って。だからこのアルバムは私にとってレゲエ・アルバムなんですよ。誰が何と言おうと。それを分かってもらえるには時間がかかるなって思ってるし、いい意味で賛否両論になればいいなって思ってる。でも、私は新しいものをやってるっていう自信はあるんですよ」

 「レゲエはこうあるべきだ」という固定概念が音楽に対する幅を狭めてしまうのはもったいない。クラシックな楽曲は、常にその時代その時代で革新的なサウンドであった訳で、そういった意味で彼女の楽曲はこの先、クラシックに成り得る骨格の太さと強烈な色彩を放っている。



"Roots Candy"
Likkle Mai
[Beat / BRC-141]

■3/16(木)代官山Unit 19時Start
■3/17(金)名古屋Upset 19時Start
その他、大阪、広島、福岡公演も開催決定!
[問]Beatink/03-5766-6571