相方Louie VegaとのMasters At WorkやNuyorican Soul業、数限りないプロデュース/リミックス/DJワークによって、その名を世界に轟かせるKenny“Dope”Gonzales。満を持して発表の個人名義アルバムがまたドープなことに…!

 ケニー・ドープ個人名義でのアルバム『Black Roots』がドロップされた。その内容は「まず自分の耳で聴いてみて」というのが最も正しい紹介であろうことは別にして、僕等の耳に馴染んでいる今までのケニーの音とは、また違うもの。個人名義でブレイクビートものやラガ調のトラックもの、もちろんMasters At Work(以下MAW)としての美しいハウス系のもの等、長い歳月、様々なジャンルを渡り歩きながら必ずあるレベル以上のクオリティを維持し続けてきた功績を知っていれば「これがケニーの音」と枠に収めきれるものはない。しかしその濃密なキャリアにあって、本人が「今まで踏み込んだことのない、初めての領域」と明言するのが、本作である。ハウスを基調とした全編インストゥルメンタルの上にアフロ、ダブ、レゲエの要素がふんだんに散りばめられたフルレングス・アルバム発表の心境を、日本のダンス・シーンを支え続ける高橋透、牧野雅己両氏が六本木星条旗通りにてプロデュースするクラブ“R”で、聞いた。「一番最初のMAWのパーティもこんなサイズの場所から始まったんだ」と、"R"を見渡しながら、ケニー。

●自分のルーツに立ち返ったということ?
Kenny Dope(以下K):俺はプエルトリコ人だから、厳密には違う。でも、今までの自分のキャリアの中でコンセプト・アルバム制作や、MAWでの活動の脇でも、いつもフェラ・クティやアフロ・ビートはあった。DJする時もかけてきたし、自然に自分の一部なんだ。

●今回アフロ・ビートを取り入れたっていうのには、どんな意図が?
K:純粋に、あの音を使って作品を創りたかった。

●今この時期だから、ということは?
K:今までやったことのないことだったから。だから自分にとっても新鮮だった。今までディスコは創ってきたし、ソウルフルなハウス、90年代初頭のハードなハウスやとにかく色んなかたちのダンス・ミュージックを創ってきて、Nuyorican Soulで生のライヴもやったしリミックスもやってきたけど、アフロ・サウンドには明確に手を出したことがなかった。今回はそれもあって、あえてそこまで深く創り込まないで、シンプルにするように心がけた。

●自分にもリスナーにも、アフロの世界への“ドア”となるように?
K:そう、“Black Roots”そのものの世界観へのね。2枚目ではホーンを加えたりライヴの要素を入れたり、もっと複雑に深くしていくよ。今やっと、自分がやりたいと思うことに集中できる環境ができてきたんだ。数年前は人から頼まれることばかりをやっていた。「このクラブでこういう曲をかけてくれ」とか、同時に週に5、6本もリミックスを抱えて、10年があっと言う間に過ぎていった。自分のしたいことをやるというより、言われるままに来る仕事をこなしていって、それはそれで楽しかったし、凄いアーティストと仕事する機会もあってお陰でいい経験をつめた。でも今は深呼吸をして、自分がやりたいと思えることを集中してやりたい気持ちなんだ。例えばコンピレーション・アルバム作りは大好きな作業だし、もちろんこの『Black Roots』のプロジェクトも心からやりたいことの一つ。シングルはたくさんやってきたから、今後はアルバムをもっと作っていきたい。

●若い世代にもアフロの魅力が伝わると思う?
K:それがあえて楽曲を複雑にしなかった理由の一つでもある。若い子のメンタリティは分るから、みんなに魅力を感じてもらってこの世界に入ってきてもらうには、まず極力シンプルにしておくことが大切なんだ。それで一度理解してもらって、創り込んでいくのはその後の段階だよね。アルバムもそうだけど、DJでも、昔のいい曲っていうのは繰り返しかけてその良さを伝え続けるのが必要。今まで大変だけど身になる方法でジャンルを越えて沢山のことを学んできたから、その経験を作品に反映させたんだ。
(協力:World Disco Crew)



"Black Roots"
Kenny "Dope" Gonzalez
[Toy's Factory / TFCK-87405]